対馬の河童とカワウソ

幼い頃から自分たちの世代はガッパの話とカワウソの話を聞かされ育ったようなものである。言うことを聞かないとガッパが来るぞと脅されていたが、他の地域でもそのように言われていたことも聞いた。時代の流れか先輩の方に聞いた話では、言うことを聞かないと「蒙古」が来るぞと言われていたと言う。ガッパに似た話は川だけでなく山での話もよく聞かされていたので夕方など山から遅く帰るときは怖かった。

小学生のころ集落下の浜で大人6~7名が何かを取り囲み、オットセイとかアザラシだろうとか話している現場に出くわしたことがある。見るとオットセイなどに比べる体は極端に痩せ細り足も4本あり、子供心にオットセイやアザラシでなくカワウソではと思ったことがあった。カワウソは警戒心が強くいてもイタチやテンのように普段、見ることはなかった。

 それまでカワウソの噂は聞くも殆どが川に飛び込む音の話が多く、自分の集落で実物を見たと言う方から話を聞いたことはなかった。一度、近所住む福島マサと言う小柄な婆ちゃんが、明の食事の準備で川沿いに建ち並ぶ蔵まで行くと岸から数メートル離れた川の中に、集落でガッパ石と言われる大きな岩があり、その上に見たことのない3匹の動物が上がり休んでいたと言う。見ていると気付いた動物3匹が川に飛び込み潜ったと言う話を聞いたことがある。

 我が集落は河口になり、川幅は広く川沿いの家の庭先は川になり、壊れないように簡単な石積みで、あったり長い竹など切ってきて壁代わりに防護柵があった。対岸には畑も広がり、土手は低く防護柵になるような草木も生い茂って無くカワウソが昼間隠れるような場所も無かった。このため夜にでもならない限り集落の前にカワウソが現れることは無い。沖に漁に出て夜帰ると人家下の川岸などから飛び込む音を何度も聞いたと先輩の故、永田氏から聞いたことがある。  

上流は河口に比べ川幅が狭くなり、洪水から避けるように川岸から離れた場所に家も建てられている。当時は護岸工事も少なかったことで川岸は天然の土手になり木や竹などが生い茂っていた。川までの距離もあり、カワウソにとって棲息しやすい環境にあったと考えられる。

 先日も、話をしていると先輩が、自分のおふくろも田んぼに行く途中、川岸を泳ぐカワウソを見たことがあると聞いていると場所も教えてもらった。

峰町、吉田のカワウソ情報

1990,06,13日、峰町の役場に寄りヤマネコの情報でも無いか知人で職員の阿比留伴次氏を訪ねると、ヤマネコは知らないが叔母さんから近頃、カワウソが2匹泳いでいるのを見たと聞いたとのこと。その頃は、カワウソの詳しい本などもなく生態はわからないので変わった痕跡でも無いか調査に通った。カワウソがいたと言う現場は河口から数百メートル上流で県道と交差している場所だった。その上流、100mには現在も当時のままの堰があるが、下は水の流れで掘られ当時はフナやウグイが沢山いた。周囲にはボラもいて夜にもなれば、カワウソにとって餌など豊富な場所と思ったことが有る。調査しているとき一度、堰の上の土手兼農道に手のひら大の少し乾びたフナが4~5匹無造作に置かれ、フナの腹に傷が付いて不思議に思ったことが有った。現在は沢山見られたフナの姿は見られないが、川の上流まで行くと原因が見える。

本土でも、此のころ1990年代にニホンカワウソの生息調査が高知県を舞台に環境庁などで行われていたことを当時の調査関係者の方から聞いている。

韓国に調査

2000年11月仲間7名で、韓国は全羅南道求礼郡まで、故、柚木修氏などヤマネコの調査を兼ね仲間数名で行く。韓国での案内は地元の「智異山自然環境生態保存会」禹斗晟会長や会員の皆さん。韓国野生動物研究所、所長で馬山大学の兼任教授、韓盛鏞先生。また韓国では有名な野生動物の権威でもある韓尚勲氏がソウルから駆け付け案内して頂いた。

場所は、求禮市の河(スシチョン)?で、ヤマネコやカワウソが生息していると言われる河だった。河川敷を調査しているとカワウソの糞が見つかり、見せられた時は感動した。糞の中には魚のウロコや骨なども交じっていた。糞は数カ所で見つかり、後で他の場所に案内された。そこは崖下で広い淵になり、川幅や水深も深く魚も多いと考えられた。崩れて来たと思われる大きな岩があり、この石の下には一帯を縄張りに生息しているボスの番が住んでいると聞いた。昼間は、岩の下にいて夕方から徘徊すると言う。

洪水の時は上に這い出しているとのことだった。2001年だったと思うが、韓国では大きなニュースになる洪水が起き、その時、親にはぐれ保護されたカワウソの子供を智異山自然公園管理事務所?の部屋1室を開放し、飼育されていた。部屋に案内されると人馴れした幼獣に膝までまとわりつかれ、伸び放題の爪でひどい目にあったことがある。

下の写真は2000年11月に初めて行ったとき河川敷など案内されているもの。写真右は、今はこの石の下にカワウソがいると教えられ覗くも奥は見えなかった。

川の汚れやカワウソの餌になる魚が少ないことを考えると、カワウソにとって棲息するには比べ物にならないくらい対馬の方が条件が良いと思った。2017年2月6日、琉球大学がツシマヤマネコなどの調査用に設置していた自動カメラにカワウソが撮影され、8月17日に同大学の伊澤雅子教授が記者発表を行い大きなニュースとなった。自分はこれまで見たことは無かったが島外から来た人には写真こそないが対馬にはまだカワウソがいると話していたのでニュースの後、数名の方から電話もあった。ニュースの3カ月前に、俳優の中本賢氏が対馬には本土で見られない植物から生き物まで沢山いるが、魚類は見つかってないので調査に来たと、仲間に案内されて来た。その時もカワウソの話をしていたが、三か月後には琉大のカメラに撮影された。

写真は、2017,02,07日、仁田川にカワウソの調査に行ったときの撮影。右の2016年2月撮影の写真は佐護で最も情報の多い場所の少し下流になるが、この上まで河川改修が終われば諦めなければいけない思い撮影していた。

 対馬のことをよく知らない専門家の皆さんが、ニュースの後でニホンカワウソではと騒いでいたが、自分は以前からヤマネコやテンなどのように大陸系のカワウソだと思っていた。対馬の赤牛は朝鮮半島から農耕用に輸入されたと聞いているが、他の生き物は遠い昔から生息していたと聞いている。鹿や馬でさえも本土の物とは違う。 

ツシマカワウソ

2017年8月17日、ニュースが流れるのを見て何処で撮影されたか知らないが、地元で生まれ育った者だけに、昔からカワウソの情報が最も多い場所はわかる。すぐにもカメラを設置したいと思ったが、マスコミの皆さんなど多く動けなかった。島外にいる海老名祐紀君がニュースを見て、すぐ実家に電話したと聞いた。彼は自宅から少し上流に川に友達二人と泳ぎに行き、11年前の中三のとき友達とカワウソを見ていたと言う。先生に話すもテンかイタチだろうと相手にしなかった話も聞いた。

9月初旬になり、マスコミも一段落し静かになっていた。海老名祐紀君が帰省したので、9月3日に11年前カワウソが泳いでいたと言う現場に調査を兼ね二人で行った。場所はカメラを設置しようと思っていた場所。以前、この砂利は無かったが洪水で裏山から流れ堆積していた。写真には見えないが祐紀君の真上に古木があり、砂利の前あたりによく飛び込んでいたと話す。

 その後、9日に一人調査に行くと見かけない小さな糞が1個砂利の上に落ちていた。ヤマネコ、テンの糞とは違う。カモなど野鳥も来るため暫く考えたが、わからず臭いを嗅いだことでカワウソの糞とすぐわかった。韓国で見た糞は量が多く形こそ違っていたが、臭いには騙されなかった。すぐ、地元にある環境省の保護センターに連絡し自宅まで取りに来てもらった。

糞はその後も見つかり、カメラも設置していたので撮影は時間の問題と考えていたが、10月5日に回収すると10月1日に動画と静止画が撮れていた。何度も見ていると動画の方は2匹のようである。此のころ、糞などDNAの検査で2匹の雄と1匹のメスが確認されていた。11月にも1枚証拠写真が撮れていた。
写真を最初見た時は、これまで体に張り詰めていたものが崩れ落ちた感じだった。

聞き取り調査 

韓国から泳いで来たとか、流れ着いたとか色々言う専門家もいるので資料集めも必要だと思い、情報など尋ね集めているが、地元の皆さんだけでも予想以上に、飛び込む音を聞いたと言う方や見ていた方が地元地域だけでも多いことがわかった。「ニホンカワウソは、1964年(昭39年)6月27日に国の天然記念物に指定され、翌1965年(昭40年)には特別天然記念物に指定」されたと言う。1979年(昭54年)以来、目撃例がなく2012年8月(平24年)に絶滅種に指定された」とあるが、対馬では絶滅したと言う年代は皆さんに尋ねた限り無いし自分もそう思っていた。

(上の写真は地元の方からカワウソを見た現場に行き、説明を受けているもの)

(上は若い頃、この地域の川でよく見たと話す阿比留氏、2018年9月地元の皆さん十数名がこの川で泳ぐカワウソを見ている)阿比留氏もその中の一人でもある。

本土の方でも絶滅宣言が出された後で目撃例はあるようだが、写真など確証できる物が無く?あっても色々あり出さないのかも知れないが、ツシマカワウソのようにテレビなどでニュースとして見られるのはそう遠くないことかも知れない。自分はこれまで噂なども聞いていたので対馬での絶滅など考えたことは無かった。
本土ではカワウソを韓国から入れるとか言うようなことも聞いているが、そのような馬鹿げたことは環境省も許可しないだろう。
絶滅宣言が出されてなかったら本土や対馬でももっと多くの情報が寄せられていたと考えられる。
一日でも早くニホンカワウソの写真も撮れ、ニュース&写真を島外の仲間から見せて頂きたいと願っている。

山村辰美